インド人の心理 なぜ初対面から疑り深いのか

by Zdeněk Macháček on unsplash

インドはビジネスでは難しい場所だとレッテルをはられています。何をするにも時間がかかり、時には面倒な手続きが必要だったりします。インド人がわかりきったことに対してあまりにもたくさんの質問をしたり、通常受け入れられる以上の証拠を求めたりするので、腹を立てる人もたくさんいます。どうしてそうなのでしょうか。今回はその背景を説明いたします。インドでビジネスをする方にとってお役に立つかもしれません。

ほとんどすべてのインド人は何かをするにせよ疑ってかかります。これは誰も信用しないということではありません。「無罪と証明されるまでは有罪で、それまではだれからも信用されない。信頼性やそのヒトの行動、どこの誰なのか、誰を知っているのかによって信頼を築いていく。」この原則に基づいて行動しているからなのです。相手と向き合い、信頼を築いていくのです。残念ですが、カーストや社会的地位が信頼に影響しますし、信頼構築にはとても時間がかかります。

もちろん、懐疑的で、誰も信用しないという姿勢によって、ときには防御的になり、他人に先んじようと相手を出し抜いたり、狡猾に振る舞ったりします。インド社会では身を守るために役立つかもしれませんが、ビジネスではその姿勢が必ずしも恩恵につながるわけではありません。しかし、おそらくこの姿勢によって、一部のインド人が非常に抜け目のないビジネスマンとなっているのも事実です。

日本では、日本人は外国人よりも日本人を信用する傾向が強いと思います。一方、インド人は最初からインド人を信用しません。国土が広大で、多様な民族、宗教、コミュニティ、社会階層からなっており、すでによく知っている人か同じコミュニティ出身でなければ、まずは不信感をもって臨みます。インド人同士でも生存のための競争相手だからです。

では、なぜインド人は最初は大きな不信感を持っているか



よって、若いときから「サバイバル本能」が発達します。生き残り、だまされないために世渡り上手に、そして時には冷酷でなければなりません。安心安全に生活するためのこの考え方は人生経験や家族から学ぶのです。インド人がとても注意深い傾向があるのは、何も信用せず、すべてに疑問を投げかけるように体系的に教えられているからです。あらゆることが難しく、過剰競争の複雑な国で生き残るための本能なのです。

日本や多くの国では、人はあなたを信用します。そしてあなたが間違っていると証明された場合にのみあなたを罰します。インドでは、何年もの間、誰かが間違っていることを証明できないことがあります。(訴訟は法廷で何年にもわたって延長されます。これも不信と欲求不満につながります。)これが誰も信用しない理由です。

行政制度やシステムの変化

インドでは、行政制度はそれほど効率的ではありません。単純な職務を完了させるにもネットワークが必要となります。誰かがあなたのことを知っているか、あなたが力のある誰かを知っているなら、ものごとは素早く進みます。賄賂などの汚職や、カースト主義や差別も存在します。多くのことを成し遂げるためには、一般的に多くの文書と証明が必要となります。

また、インドには、多くの貧しい人々や移民がいて、適切な身分証明書や出生証明書さえも持っていません。紙のIDを持っていたとしても、たいていは有効な文書ではなく、何をするにしても自分が誰であるかを証明するのに多くの手続きが必要となります。身元調査が複雑になるという理由だけで、一般的に企業や組織は誰と取引するかについてとても注意を払います。

人は生活している制度や環境に大きく影響されます。インド人の中に信頼感を取り戻すためには、行政制度と環境を完全に変える必要があります。幸いなことに、前向きな変化が出始めています。

モディ政権はこのことを認識していて、ビジネスにとって不利であるとも考えています。物ごとが非常に複雑な国でビジネスをしたり、投資したりすることは誰も望んでいません。たとえば、稀な例ですが、銀行口座を開設する場合に、その銀行の別の既存の口座名義人を知らなければならないものがあります。ビジネスには優しくありませんが、こういうことは起こり得ます。お役所的、官僚的で、過度に厳格で冗長な規制です。こういった制度は行動や意思決定を妨げます。インドのビジネスは、以前はこの過剰な官僚主義の代名詞でした。

モディ政権は、個人認証のプロセスとビジネスの規範をより明確かつ透明にするために、多くの制度を変更しました。大きな変更点は次の通りです。

GST(物品サービス税)の登場

モディ政権は、2017年7月にGST (Goods and Services Tax:物品サービス税。日本でいう消費税) を導入しました。GSTは新しい税制改革のビジョンとして、2003年にアタル・ビハーリー・ヴァジパイ政権によって最初に提案され、実現までに長い時間がかかりました。

GST(物品サービス税)はより明確で透明性のある税制です。税金はオンラインで支払うことができ、その領収証により、ものごとをスムーズに進めることができます。税金の上に税金が掛かることがなくなるなど、税金の連鎖的な影響がなくなり、税のコンプライアンスが向上します。ものごとの透明性が高くなり、汚職も減ります。

GSTは、商品やサービスの提供に対してインドで用いられている間接税(消費税)です。包括的で多段階の仕向地税です。いくつかの州税を除くほとんどすべての間接税が含まれているため、包括的です。GSTについてはいつか改めてブログで触れたいと思います。

個人および所得税用の新しいデジタルIDカードの必須化

デジタル署名とデジタルID(Aadhaar*)、および日本のマイナンバーのような税のID(PAN* CARD 所得税の申告のための納税者番号カード)が確立されているため、個人認証がより効率的になり、場合によっては複数の個人認証が不要になることさえあります。

コロナの影響、決済システムのデジタル化、そして取引の高速化の必要性から、道端の屋台でさえPaytm*のようなデジタル決済を利用できるようになりました。信頼は進化しています。これはまた、システムが適切に実装され、社会のすべてのレベルで基本的なレベルのトレーニングがあれば、人々はシステムに適応し、それを信頼することを意味します。

Aadhaar
政府による12桁の個人認証番号です。この番号は、インドのどこでも身元と住所の証明として機能します。

* PAN:Personal Account Number
所得税局によって各納税者に与えられる一意の10桁の英数字の納税者番号で、カードになっています。中央税務委員会によって監督および管理されています。身分証明書としても機能します。 PANの番号は、住所が変わっても変わることはありません。

Paytm
Paypayのようなキャッシュレス決済サービスの提供企業。インドではすでに一般的な支払い方法となっている。ソフトバンクも出資しており、Paypayの基本技術はPaytmのもの。本社はデリー近郊のノイダ。

まとめ

多くの地元企業は、顧客の信頼を得るためにビジネスおよびサービスモデルを確立しています。インドでは、消費者の信頼と信頼を得ることが必須です。このためには、まずインドの消費者のように考える必要があります。平均的なインド人の考え方は、インドという環境のために、何に対しても疑り深いかもしれません。インドでビジネスを行う場合、短期でなく長期的な観点で進めたほうがいいでしょう。信頼構築には時間がかかります。

一方、制度やシステムはいい方向に変化しており、インド人の考え方も変わりつつあります。 日本の企業にとって、なぜインド人が最初から疑ってかかってくるのか、新しい制度やシステムが一般的な信頼とビジネスの流れをどのように改善するのか、それによって日本人がインドでビジネスを行うのは容易になるであろうということを理解することが重要です。

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